「スルガと僕の感情大戦」

著者 天津 向 all

13.8.20

「スルガと僕の感情大戦vol23」

「いいねえ、お前。だいぶ強いじゃないか。お前、名前は?」
「…ジェム。ジェム=クライダルフ=フォクト」
「ジェムか。よし、ジェム。お前に最大の敬意を払って私も本気でこの勝負に臨もう」
「…本気じゃなかった、と?」
「正直ね、僕もこの大会初めてではないのでね、いらない老婆心みたいなのがついてしまったというか、序盤からフルでいく訳にはいかないのだ」
するとキムが少し顔を出した。かなりびっくりしてる顔。これはどうやら老婆心というよりキムの忠告だったっぽい。その手柄を取られた形だからびっくりしているのだろう。
「面白い。それでこそ、あのスルガだ」
水色…改めジェムが、戦いの流れを変えようとしたのか、自ら剣を引き、少し下がった。状態は違えど、戦う前と同じ距離になった。
僕は別に当然ながら戦いの才能がある訳でもないが、この空気から二人の強さを感じていた。しばしの沈黙。この間が次の一手をどうするか見てる者からしても興味深くなる。その間を破ったのは、舞台にいる二人ではなかった。
雁!
鈍い音と共に僕の頭に衝撃が走る。
え…?
倒れながらも衝撃のあった方も見るとそこにはあのあちら側の武器…御徒くんが立っていた。手には鉄パイプを持っていた。
倒れた僕に向けて嘲笑している御徒くん。いや御徒。
「な…何を急に…」
「何を急にじゃねえよ。もともと俺とお前の因縁からのスタートだろ?当然ここのケンカもあるに決まってるだろ?」

13.8.9

「スルガと僕の感情大戦vol22」

そう言うとスルガは僕の体に手を当てた。
僕の体から一本の剣が現れる。一回目はパニックであまり分からなかったが、その剣は多少ピンクがかっているのが分かった。そして前回より少し落ち着いてる自分にイヤな気分がした。
「キム。相手の武器は?」
「うん、セカンドのレベル40から60。なかなかな強い武器なんじゃないか?しかもこの威砂貴とのやり合いでよりレベルが上がってるような気すらする」
「そうか…よし威砂貴」
「な、何?」
「あまり私から離れるなよ…行くぞ!」
スルガは前回同様の早さで敵に斬り込んでいった。今回もまた一瞬で勝負が決するかと思ったその時。
駕琴!
という金属同士がぶつかった時に生じる独特の音がした、と思うと、スルガが斬り込んでいった時に立った砂埃も落ち着いてきて二人の姿が見えた。
鍔迫り合い、というのか。日本刀などで言われる例えなのでこの場合適切とは思えないが、お互いの武器でお互いの武器を止めている状態になっていた。しかしこう見るとあまりにも体格が違いすぎて、スルガが相手の子供を虐めてるようにしか見えなかった。
「ほう…やるねえお前」
「…まだ全然準備運動だよ」
と言うと水色は受け止めていた青竜刀の刃の角度を90度回転させ、面が大きくなったその自身の持ってる青竜刀に向かって、全体重を預けるドロップキックをした。それによって先程の均衡が崩れ、スルガは体をよろめかせる。するとその隙を見て水色がスルガの脳天に向かってその武器を振り下ろす。確か青竜刀は斬るというより叩きつぶす武器だったっけ、なんて事を思い出してる場合じゃない。やばい!
だがスルガはそれを予想してたかのように剣で身を守った。かなりの衝撃だったのだろう、スルガが膝を地面に付けた。大丈夫だろうか、なんて思ってスルガの顔を見ると笑っていた。

13.8.4

「スルガと僕の感情大戦vol21」

「ようやくおでましかい、待ちくたびれたぜ」
そう言って、彼、御徒くんは付けていたヘッドホンを外した。
「まあいいや。なんかさ、葉壁。お前さっきの教室でもそうだったけどさ、うざいんだよ」
ほう。なかなかな本音でぶつかってくる奴だね。担任の先生ならお前の事を抱きしめたいくらいだよ。
「そして今日の事だろ。いつかお前に天誅を食らわさなきゃな、なんて思ってた時にお前がこの狂舞大戦にエントリーしてるのを知った」
大会の名前は狂舞大戦というのか。
「それなら好都合、という事でこうやってわざわざお前を待ったんだ。お前に敗北の味を味あわせるためにな」
「そんな事しなくても、話し合いで解決できないのかな」
「はっ!話し合いだ?お前と話す事なんて何もない」
「いやしかし…」
「分かった。話すなら、俺はお前を倒したい。あんだけ周りに迷惑かけるくらい教室でうるさかったお前をこの場でボコボコにして、地面にはりつかせたい。これで話し合いは終わりだ」
「おい。どうでもいいが戦うのは私だ。御徒。お前は武器でしかないのだぞ」
水色の女の子が口を開いた。髪の毛がはっきり水色で短めのツインテール。歳は、8、9歳に見えるが、体全体が放ってる落ち着き方がもっと大人に見せている。といってもそれでも14、5歳な訳だが。
「分かってるよムーブ。しかしこいつとはちょっといろいろあってな」
「それは知っている。だからこそお前の我が儘を聞いてこうやってあやつが来るのを待ってたのではないか」
「すまないな…だがもう大丈夫だ。さっさとやっちまうか」
「ああ」
そう言うと水色の女の子は御徒の体から武器を取り出した。大きい青竜刀。その武器を持つ水色は、どうも不格好で、しかしそこがいい!という輩もいるのだろうな、と思った。
「おい威砂貴」
スルガが退屈そうに目を擦りながら言った。
「あちらも臨戦態勢だ。こちらも戦わせてもらおうじゃないか」
「…そうだな」

13.6.28

「スルガと僕の感情大戦vol20」

「ならば威砂貴。そのお前の賢いついでにもう一つ聞かせて欲しいんだが」
「なんだい?」
「何故ここに来れたんだい?」
「ここに?」
見渡すと、街の中でも一番大きいとされるグラウンドの前にいた。がむしゃらに走って着いた先がここだっただけだが…
「どういう事?」
「いや、さっき質問があると言ったろう?その質問なんだが、何故、まだ何も言ってないのに対戦相手がいる場所が分かったんだい?」

何を言ってるのかピンと来ないままグラウンドにもう一度目を向けた。そしてようやく視覚からの情報が、さっきの赤髪の言葉に追いついた。
「こ、これってまさか…」
「そう、また対戦だよ。その為にわざわざ君を迎えに来たんじゃないか」
「また?また対戦?」
「珍しいな、ダブルヘッダーだよ」
するとキノコがまた胸の間から出てきて口を開いた。
「しかしまあ珍しいな。ダブルヘッダーもだが、ここまできっちりあちらが時間指定してくるなんて」
「ど、どういう事ですか?」
「普通戦いなんて何でもござれでいつ襲ってもいいっていうルールだ」
「そうなんですか?」
「威砂貴、お前に会った時もスルガが襲われてた時だろう」
「そう言われればそうでした」
大事な話の途中だろうに、僕は全然関係ない、赤髪の名前をようやく思い出せた。そうだ、スルガだ。
「それなのにあちらはお前が来るのを待ってたんだ。それこそ果たし状みたいなノリでな。お前、何か因縁でもあったりするのか?」
因縁なんてある訳がない…と思ってあちらさんを確認する。
あ。
あった。
あちらを見るとまず目をひくのが小さい水色の髪をした女の子。その横には、本当に、今日の今日名前を初めて知った彼が爪を噛みながら立っていた。

13.6.13

「スルガと僕の感情大戦vol19」

考えた結果、僕は校門から、赤髪女の前を通り過ぎる形で全速力を継続させて走った。とにかく全速力で。そして角を4回ほど曲がってからスピードを緩める。
はあ、はあ。はあ、はあ、はあ。
息を整えながら後ろを見る。すると全く息の切れてない赤髪女が不思議そうにこちらを見てる。
「威砂貴。幾つか質問がある。何故目の前を通り過ぎた?僕はここにいたのに」
「はあ、はあ。…僕はここにいたのに…ってヒット曲のタイトルみたいに言うな…」
「ヒット曲みたいに言ってたのか。全然知らなかった。そう考えると私は天然かもしれないな」
「はあ、はあ。…天然かどうかは知らないよ…」
「で、何故私の前を走り抜けたのだ?」
「それは…簡単な事だよ。君は僕に用があって来た。しかし僕はあそこで待ってる君にストレートに声をかける訳にはいかなかった」
「なんでだ?全然声をかけてくれて良かったのに」
「僕には明日からの学校生活もあるんだ。全てをおじゃんに出来る訳がないだろ」
「ふん、それで?」
「でも君の目的はあくまで僕なら、僕が目の前を走り抜けたら絶対に追いかけてくると思った。それならば、直接的な接点は他の生徒に見られる事がない。見られなかったら後でなんとでもなるんだ」
「なるほど!それはすごい考え方だね!威砂貴はすごい賢いんだな!」
赤髪は心底関心してる様子だった。そんなリアクションがちょっとだけ誇らしかった。気付けばだいぶ息も整ってきた。