14.1.16
「スルガと僕の感情大戦vol26」
気付けば御徒くんの姿もない。なるほど、あんな性格の持ち主だ、きっと完全不利なこの状態をイヤがって逃げ帰ったに違いない。
スルガは先程まで楽しく戦ってたのを全く思わせない、退屈そうな顔をしてそのままグラウンドの出口に向かいだした。
「あ、待って!」
「なんだ威砂貴。せめてお名前だけでも、か?」
「いや時代劇などでありそうだけどこのシチュエーション!」
「名はスルガ・山下タトゥー郎だ」
「嘘ついちゃった!後なんだその雨は夜更け過ぎに雪へと変わりそうな名前は!」
こんな会話をしていようが、スルガは決して足を止めなかった。僕は立ち上がり、体に付いた泥を少し落としてスルガを追いかけた。
しかしこうやってスルガと並ぶと、スルガがそのあまりにも特殊な格好である事に気付き、僕の方が少し恥ずかしくなる。
「あ、あのさスルガ」
「なんだ?好きな鍋は土鍋だ」
「いや、聞きたくもないし、食べる方の種類じゃない事にもびっくりしてるし」
スルガは不思議そうにこちらを見て首を傾げる。
「何が言いたいんだ威砂貴は?」
「いや、ちょっと聞きたい事がいっぱいあって」
「ほう、なんだなんだ、うら若き男の子に聞かれる事が多いなんてスルガ、君も隅に置けないな」
キムさんが嬉しそうに跳ねている。いや、別に彼女いますか?なんて事を聞く訳ではないのですけれど。
「いや、えっと、スルガはずっとその格好なの?」
「ん?そりゃ戦いに備えた格好だからこの格好になるだろうが、どうした?」
何かイメージがあるのは僕がゲームを好きでよくやっていたからだろうが、その格好は赤い、簡単なタイプの(そんな風にカテゴライズされるのかは別として)鎧だからだ。RPGなどで出てくる女戦士が着てるような服。しかしイメージよりは露出が多くない――それがまた寂しかったりするんだけど――という、おおよそこんな田舎町を歩く格好ではないからだ。
「ずっとその格好って事は、いつかその服を脱がしたりしたい、って事を言ってるんだな、威砂貴!なあ!威砂貴!」
このキノコはむほむほ言いながら僕に目を血走らせて聞いてくる。うるさいので裏拳をしてやりたかった。