「スルガと僕の感情大戦」

著者 天津 向 all

14.1.23

「スルガと僕の感情大戦vol28」

いや、今はそんな事を言っている場合ではない。どうする、俺?
「あ、スルガ、その格好は、て、敵からすれば目印みたいになってるんじゃないかな。例えば、やっぱりこの世界では違和感ある訳だから。めんどくさい戦闘が増えると思うんだ。それなら、めんどくさい戦いは避ける為にも着替えた方がいいんじゃないかな、なんて」
スルガは顎に拳を起き、少し考えて
「戦い自体にめんどくさいという感情を持ち合わせてないのだが」
本当に戦闘狂ですねこの人。本当にもう。
なんて思ってるとキムさんがまた肩から顔を出す。
「スルガ、確かに戦闘はめんどくさいなんて事はないかもしれない。しかし、君が何かしてる時に襲われたらどうだい?例えば君が美味しい美味しいピザなんかを食べてる時に邪魔されるとか」
スルガの顔つきが完全に変わる。その顔は驚愕の表情であり、そして絶望の顔にも見えた。
「そ、そんな!例え敵とはいえ、ピザを食べている時に攻めてくるやつなんてこの世にいる訳がないじゃないか!」
声を震わせながら必死に抵抗するスルガ。いや、どう考えても敵なんだからそういう人はいるだろうと思うのだが。
「スルガ、認めたくない事実だろうけどね……ピザを食べている時に攻めてくる敵は……」
キムさんはしっかり間を取っている。スルガは固唾を飲んで見守っていて、僕もそれに見習うように沈黙を守る。
「………いるよ」
「そ……そんなっ!」
頭を抱えてその場で崩れ落ちるスルガ。いや、そんだけためたらどんな言葉が出てくるか分かりそうなものなのだが、そんな事はおかまいなく落ち込むスルガ。
ふとキムさんの方を見るとウインクを僕に向けている。目論みに気付いた僕は間を埋めるように口を開く。
「あ、そうなんだ!じゃあ、この格好は気を付けた方がいいよね!この格好のせいでピザを食べるの邪魔されたら仕方無いよね!」
スルガはそれを聞いても全く崩れ落ちた姿から動かなかったが、急にふと立ち上がった。
「……着替える」
強く覚悟を決めた顔だった。

14.1.19

「スルガと僕の感情大戦vol27」

いや、そんな事を言ってる場合でもない。
「スルガ、もしあれだとその格好、何かしらで着替えた方がいいのではないでしょうか」
「はて?何が問題あるというのか?」
甚だ疑問、という顔でこちらを覗き込むスルガ。そりゃそうだ。僕が気にしている事なんて、絶対に、絶対にスルガからすれば興味ないという事だから。
「でも、そういう訳にもいかないよねー」
そう呟きながら後ろを振り返ると、50代くらいのおばちゃん二人がこちらを見ながらヒソヒソ話をしている。おそらく会話のテーマはスルガの格好である事は間違いない。僕は焦りながら
「あー、やっぱりこういう格好は非常に萌えでありますなー!コスプレはたまらんであるで候-!萌え-!女戦士萌え-!」
と嘘臭すぎる言葉を並べる。するとあちらから
「ああ、そういう人達みたいですわよ」
「コスプレって言うのよねあれって」
「逆にそういうので良かったわよね。変態じゃないかなと思ってましたもの」
「奇遇ね!私もよ」
なんてやりとりが聞こえる。これは一旦セーフ、という形でよろしいでしょうか?よろしいなら助かったな、という感じだ。
しかしこれだけで周りを納得させる訳にもいかない。
「スルガ」
「なんだ?好きな裁判所は家庭裁判所だぞ」
……裁判所に好き嫌いなんてあるのか。
「いや、そうじゃなくてさ、うーん」
「なんだ威砂貴?キレが悪いな。何が言いたい?それくらいもじもじしてるのは、私の世界の男子だとするとモテないぞ」
そう言われた瞬間、僕はピンと来た。
「そうだ!スルガ、その格好、きっとそっちの世界では当たり前の格好なんだよね?」
「あ、ああ。そんなに奇抜な格好ではないな」
「そこなんだよ!こちらの世界では少し違和感ある格好に見えてしまう」
「確かに同じような格好の人間に会った事がまだないな。あちらでは今の格好の人間なんて山程いたというのに」
そうなのか?こんなセクシーな格好の人がたくさん?おいおい、ちょっとそちらの世界に行ってみたいなあ、なんて思ってみたり。

14.1.16

「スルガと僕の感情大戦vol26」

気付けば御徒くんの姿もない。なるほど、あんな性格の持ち主だ、きっと完全不利なこの状態をイヤがって逃げ帰ったに違いない。
スルガは先程まで楽しく戦ってたのを全く思わせない、退屈そうな顔をしてそのままグラウンドの出口に向かいだした。
「あ、待って!」
「なんだ威砂貴。せめてお名前だけでも、か?」
「いや時代劇などでありそうだけどこのシチュエーション!」
「名はスルガ・山下タトゥー郎だ」
「嘘ついちゃった!後なんだその雨は夜更け過ぎに雪へと変わりそうな名前は!」
こんな会話をしていようが、スルガは決して足を止めなかった。僕は立ち上がり、体に付いた泥を少し落としてスルガを追いかけた。
しかしこうやってスルガと並ぶと、スルガがそのあまりにも特殊な格好である事に気付き、僕の方が少し恥ずかしくなる。
「あ、あのさスルガ」
「なんだ?好きな鍋は土鍋だ」
「いや、聞きたくもないし、食べる方の種類じゃない事にもびっくりしてるし」
スルガは不思議そうにこちらを見て首を傾げる。
「何が言いたいんだ威砂貴は?」
「いや、ちょっと聞きたい事がいっぱいあって」
「ほう、なんだなんだ、うら若き男の子に聞かれる事が多いなんてスルガ、君も隅に置けないな」
キムさんが嬉しそうに跳ねている。いや、別に彼女いますか?なんて事を聞く訳ではないのですけれど。
「いや、えっと、スルガはずっとその格好なの?」
「ん?そりゃ戦いに備えた格好だからこの格好になるだろうが、どうした?」
何かイメージがあるのは僕がゲームを好きでよくやっていたからだろうが、その格好は赤い、簡単なタイプの(そんな風にカテゴライズされるのかは別として)鎧だからだ。RPGなどで出てくる女戦士が着てるような服。しかしイメージよりは露出が多くない――それがまた寂しかったりするんだけど――という、おおよそこんな田舎町を歩く格好ではないからだ。
「ずっとその格好って事は、いつかその服を脱がしたりしたい、って事を言ってるんだな、威砂貴!なあ!威砂貴!」
このキノコはむほむほ言いながら僕に目を血走らせて聞いてくる。うるさいので裏拳をしてやりたかった。

14.1.9

「スルガと僕の感情大戦vol25」

またジェムが突進してきた。この早さに一人反応したスルガが、カウンターを狙うかのように突進してくるジェムに突っ込んでいく。
「それではいかせてもらうぜ…」
そう言ったが先か、スルガの全身から何か赤いモノがたゆたう糸のように出てきた。これが俗にいうオーラという奴だろうか。
「いくぜ!」
と言うとスルガの剣はまばゆいばかりに光り、スルガが出していたそのオーラと交わり剣が一回り大きくなった。
「く、くそう!」
ジェムもその振りかぶりを青竜刀で防御するも、その青竜刀がはじかれる。
怒御緒緒緒緒緒緒緒緒恩!!!!
とんでもない音と共が僕の鼓膜を襲った。そんな中眼だけは閉められなかった。この戦いの結末が来る瞬間というのが肌で感じられたからだ。
決着。
完全な決着だ。
スルガのポーズはその剣を振り切ったのが伝わるポーズだった。
僕はジェムの方を見る。そこには満身創痍のジェムが、横に倒れていた。傷からはとんでもない量の血液が出ていて、見ただけで完全に「最後」の二文字が頭に流れる。
「く、くそ……しかし、私ごときにこんな苦戦してるようでは…これから先が思いやられるな、スルガ…」
「はっ!私ごとき!」
スルガはそう言うと首を振りながらつまらなそうに笑った。
「自分の事を私ごとき、なんて言い方するような奴に私は全く興味がないんだよ、ジェム…だったっけ?くだらねえくだらねえ。自分を最強と信じてないやつなんかに、この僕が倒せる訳ないんだ」
そう言ってる間にスルガが持っていた剣が徐々に小さくなり、気付くと消えてしまっていた。

13.8.27

「スルガと僕の感情大戦vol24」

「知ってるか?この戦いではな、武器が命を無くすと実際あの、お前の所の赤髪が持つ武器も消滅する。そりゃそうだろってな事なんだがな、この戦いに参加してまもないやつはそのあたりを見紛う事になる」
「?」
「俺たちが武器であるという事は、俺たちもしっかりとこの戦いに足を踏み入れてるという事だ。そういう事がわからないような甘ちゃんは」
と言って御徒は鉄パイプを振り上げた。
やばい!と思った瞬間。
目の前に大きな影。見覚えのあるこの赤髪。
スルガが僕と御徒の間に入り、剣で鉄パイプを防いでくれている。
「大丈夫か威砂貴!」
「あ、ああ…ありがとう…」
「言ったろう、私からあまり離れるな、と」
「こうなる事が…分かってたのか?」
「いや。何も分かってない。どっちかというと、基本そうしてくれという気持ちだ」
そうか。シンプルでいいや。
そんな事を言ってる間に、明らかに焦りの表情が表に出ている御徒はジェムに向かって怒鳴った。
「おいジェム!何ボーッと立ってるんだよ!早くこの赤髪を倒せよ!」
「分かってるさ。偉そうな口を叩くな武器のくせに」
「これで負けたら俺が一体どうなるか分かってるんだろうな!」
「知らん。大丈夫だ。行かせてもらうぞ」