13.5.17
「スルガと僕の感情大戦vol16」
…沈黙がクラスに流れる。声の聞こえた方を見るとあまり喋った事のないクラスメイトがこっちを紅潮した顔で見ていた。その瞬間を見てはいないものの、さっきのうるさいな発言は彼のものだろう。先に喋ったのは橘だった。
「何がうるさいんだよ御徒。こっちは休憩中に遊んでるんだよ。別にお前に注意される程のボリュームじゃないだろ」
そうか。彼は御徒と言うのか。橘が知ってるという事は当然クラスメイトなんだが、いかんせん何に対しても興味がない僕は人の名前や顔がなかなか覚えられない。橘の顔と名前が一致しだしたのも、恥ずかしながら最近なのだ。
「なんだよこっちがうるさいって言ってるんだからうるさいに決まってるだろ!」
御徒と呼ばれた男はセミロングの黒髪に眼鏡で、その指をずっと噛んでいた。どう見てもこれはザ神経質、いや神経質オブ神経質。神経質キング。
「こっちはさ、見て分かるだろ。勉強してるんだよ!それを邪魔してもらわないで欲しいなあ!」
「じゃあこっちも言わせてもらいますがね、今の君は俺たちよりも遙かにうるさいけどね-」
こういう言い回しをする時の橘は好きではない。しかしこれは言い得て妙だった。実際他のクラスメイトはこの神経質…いやさ御徒くんをみんなしかめっ面で見ている。それどころか廊下を通っている他のクラスの子ですら窓ごしに御徒くんを見ている。かなりの大きさで喋っているしそれは怒鳴り声だ。高校での事件なんてそうそうない。窓の外は好奇心の塊となっている。
それに気付いた御徒くんは廊下の塊を睨み付けた。そしてそれよりも強い睨みでこちらを見て
「ちっ」
と舌打ちして自分の机の中からipodを取り、教室を出て行った。
「あらあら。やっぱり賢い方は違いますね、36計逃げるにしかずですか」
と橘は皮肉たっぷりに呟く。有里音は有里音でほっと胸を撫で下ろしている。有里音に注目はしてなかったが、どうやら有里音の性格だからかなりビクビクしていたのだろう。今は遅く帰ると言っていたお母さんがようやく帰って来た子供の顔みたいに安心と嬉しさが溢れている。
しかしやはりこの二人というのは一緒にいて落ち着くなと思った。それは一人一人もそうだがバランスが最高なのだろう。三人でいる事が、自分の声をただ響かせるその絶妙な黄金分率。のような。そんなセンチメンタルな気持ちとクラスのさっきまでの騒がしい状態を授業の始まりのチャイムがピリオドを打った。