13.5.1
「スルガと僕の感情大戦vol14」
橘が姫君というのは誰の事か知っている。ひとつため息をついて右に首を動かしてみる。
すると案の定、右斜め後ろの席の有里音がその大きな目を潤ませながら不安そうにこちらを見ている。〇〇そうにこちらを見ているなんて、超有名RPGの台詞みたいで気がひける。いや、あれは仲間になりたそうに見ている訳で、この場合の目線とは当然違う。違う。違う違う!今そんな話どうでもいい!つまり有里音はこちらをすごく不安に見ているという事だ。それも当然だ。有里音とは学校に行く前に出会ってる訳で、遅れた理由を聞かれるのは必至だ。説明はおそらく次の休憩時間にはしなきゃいけないし、先生に伝えたような本当の事は伝えられないだろうから、何かこの授業が終わるまでには考えなくてはならないな。
そんな日常。
あれこれ少しずつ差はあれど毎日こんな明るい皆に囲まれて、悩みもありながら日は過ぎていききっとこの学生生活は楽しいまま過ぎていくのだろう。
そこが絶望なのだ。
僕はおおよそ何かに突出したような才能を持っていない。はっきり言おう。僕はただのどこにでもいるような人間であり、それは誰がどう言おうが揺るがないものだ。明日奇跡が起ころうが僕は一生メジャーリーガーにはなれないしミリオンを叩き出す優しいラブソングを歌い上げる事もない。ただの日常。それが延々続いていく。僕はそれを幼い時、6歳の時にその事実に気付いてしまった。当時僕が唯一遊んでいたあの男のおかげで。完璧な完全な完遂なあの男のおかげで。あの男は何をやっても全てが一番だった。今までやった事もない事をその場でやっても、10年やってる大人よりもそれをこなす事が出来るあの男。
まあともかく僕はそのあまりにもの才能に向き合ったせいでそこからの人生を、80年くらい生きるかもしれないと言われるその長い年数をたった一瞬で見抜いてしまったのだ。きっと僕はこんな人生だと。あまりにも眩しい光の前で産まれる濃い影。
それから毎日僕はどれだけ笑おうが泣こうがどこか醒めてしまっていた。だってそれは僕の死ぬまでのたった一つの行事でしかないのだから。クリアするまでの内容が初めから分かってるゲームをどうやって楽しめば良いのだろうか。
平凡平凡平凡。
いや、決して平凡が悪い訳ではないんだ。
幼い時に見えてしまった自分の未来。
それはまた別だお前の可能性じゃないか、なんて叱咤する人もいるだろう。
違う。そんな事を言えるのは本当の完璧を見てないからだ。