「スルガと僕の感情大戦」

著者 天津 向 all

13.2.2

「スルガと僕の感情大戦 vol.1」

ジリリリリリ……
どこにでも売ってる目覚ましの、どこでも聞ける音が睡眠を遮る。
慣れてる音とはいえ、音の鳴った瞬間のこの心臓を奪われるような不快感には毎度心が沈む。
「ふぁあ…もう起きなきゃ」
昨日夜通しテレビゲームをやっていたせいで睡眠時間もほとんど取れていない。布団から出るのすらおっくうだ。はやく起きないとまたもう一つ不快な音が始まってしまうから…と思ったのが先か音が先か。
ガンガンガンガン!
「威砂貴!起きなさい!もう学校行く時間でしょ!」
…タイミングはあちらの方が早かったか。
「大丈夫だよ!もう起きてるから!すぐ降りるよ」
「早く降りてきなさいよ!朝ご飯冷めるわよ!」
「ったく…今フライパンの音で起こすなんて一体いつの時代だよ…」
目を擦りながら部屋から出て二階から一階に降りる。台所に向かうと、母と妹が朝ご飯を食べている。ここ何年変わってないいつもの光景だ。
「もー、お兄ちゃんまた寝坊してる」
妹の亜寿沙はいつものように鼻がかった声で喋っている。風邪でもなくこの声が、好きな人と嫌いな人で別れるかもしれない。
「別にそんな寝坊って時間じゃないだろ。そもそもこの時間にアラームを鳴らしているんだ」
「そんな事言ってるんじゃないよ!もう少し早く起きなさいって言ってるの!」
正論を言ってくる妹がこんなに可愛くないとは思わなかった。そもそも妹萌えだのなんだの言ってる人の気持ちが僕には全く分からない。幼い時から一緒にいる血を分けた兄姉に萌えるなんて。ただの変態じゃないかと思ってしまうのだがどうだろうか。大概そう思ってるのが世界の原理だろうが僕はその原理を何倍にも濃くしてそれを口にしたいのだ。濃くしてで思い出したが、カルピスでは案外僕は濃いのより薄いのが好きだったりする。だからどっちかというと、友達は金持ちより貧乏の方がありがたいかなと思ってしまう。
いやいや。それはともかく、立派な兄が妹に正論で言いくるめられてる場合ではない。
「別にいいだろ。部活もしてないしこの時間で学校も遅刻しないんだから」
「あ!ちぇっ!今日牡牛座11位だ!」
そう言ってみるも当の妹はもうテレビの血液型占いに夢中だ。落ち込むも、しかしこれ以上の討論は無駄だろう。とりあえず、母は僕を冷たい目で見てる。大概この表情というのは早く食器を洗いたいという顔である。その表情をなんとか緩和するためにも僕は目の前にある食パンと目玉焼きを口にかき込んだ。
「行ってきまーす!」
妹は部活の朝練でだいぶ早く家を出ていった。部活はラクロス部らしい。ラクロスなんて正直あまり僕からすれば何のスポーツか分からない。なんか昔お菓子のCMでやってたなという印象だけだ。そもそもあの網がついた棒はなんなのだ。あれを使ったスポーツってなんだ。あの棒の名称なんだ?そもそも何人でやるスポーツだ?いやこれから僕はラクロスをやってるという人間に出会う事があるのだろうか。なんかないような気がするのだがどうなんだ。まあ本当にどうでもいい事しか言ってないのだけど。とにかく朝練に行ってるという事が伝えたかったのだ。後余談だが亜寿沙は、あれはあれで男子に人気があるらしい。分かりやすいツインテールと幼い顔がものすごいハマる人にはハマるとか。高校に人数は少ないながらもファンクラブがあるという話を聞くと、もう世の中は終わってしまったのかななんてシニカルな事を思ってしまう。
なんて。人の事はどうでもいいのだ。こちとら母の皿を洗わせろというおそらく世界の朝の中でも最大のプレッシャーに勝たなければならないのだ。そのプレッシャーになんとか勝って朝食をたいらげる。そして足早に部屋に戻り、まだ一年と少ししか着ていない学生服に腕を通す。
「行ってきまーす」