「スルガと僕の感情大戦」

著者 天津 向 all

13.4.23

「スルガと僕の感情大戦vol13」

                   ◇

第2幕

しかして僕は学校に着いたのはもう二時限目も終わりに差し掛かってる十時半前であって、その時間になった理由を先生に聞かれるも、良い言い訳がなんにも思いつかなかったので一度本当の事を言ってみようと思った。
「来る途中に赤髪の女の子に出会いまして、その女の子がとんでもなく襲われてたので助けようと思ってたら僕の体から剣が出てきまして、あ、そうだ、言い忘れてましたけどねその赤髪の女の子の肩には喋るキノコがいまして」
と、ここまで言った時点で
「あ、そうかそうか。分かった。多感な時期だもんな。よし、分かった、葉壁。次からは何かあったら先生に相談しろ」
何かとんでもない誤解を招いた予感。しかしまあそれはそれでこちらとしては都合が悪くない話だ。無理に嘘をつかなくてもこの正真正銘ちゃんとした理由で怒られる事もなかったというだけで奇跡ではないか。なんて思って自分の机に座る。
「おい、こんな時間に来るなんてどうした?社長出勤にも程があるじゃないか」
小声で喋りかけてきたのは隣の席の橘薫。この八坂条学園に入って一番初めに仲良くなった同級生。まあ、仲良くなったと言っても橘の方からグイグイと
「なあ!俺橘!なんとなく次目が合ったやつとは一生親友な気がしてたんだ!それが君だ!よし!親友になろう!」
なんてもう友情の押し売りというかもうオレオレ詐欺ばりの内容で、初めから会話のイニシアチブを握っていた男だ。僕以外にも親友なんて100人以上ササッと作って遠足でおにぎりを皆と食べてもおかしくないというのに、親友どころか他の同級生と喋ってる素振りがあまりない。それを一度聞いたら
「いや、別にあのタイミングで目があったのがお前だけなんだからお前以外と仲良くなる意味がないだろ」
と割と素のトーンで言われたのを思い出す。なんか不思議なやつだが、別に嫌いになる要素なんてないのでこんな感じでダラダラいつも同じ時間を過ごす。
「何があったんだよ!」
「別に何もないよ。なんとなくボーッとしてたらこんな時間になってて」
すると橘は少しだけ声を大きくした。
「バカ言え!じゃあお前は毎日遅刻する事になるじゃないか!」
…こいつ。けっこうな事言ってくれるじゃないか。まあわりかしボーッとしてる方かもしれないが、そんなに責められる程ではない…はずだ。
「いや、別にいいだろ。高校生男子が学校遅刻。そんなにトピックスになる程の事ではないだろ」
「まあ確かにな。しかし、あの姫君はどうだい?」

13.4.16

「スルガと僕の感情大戦vol12」

その時はなにかこのスルガの台詞に小さな違和感は感じたものの、別にこんな事が起こった後だ。心の整理なんてもんは家でやるもんだと判断して、その場の違和感は落ち着いていった。
そして僕はキムさんにこれからの戦いの時のスタンス(戦いの時はなるたけスルガから離れておく、しかし離れすぎるとその武器の能力が弱くなってしまうので、結局つかず離れずという位置にいないといけない)をあれこれ教えてもらって、今日はスルガとキムさんと別れる事にした。そしていろいろ気付いたのは、想像より僕はこういう妙な、というかむちゃくちゃな状態を受け入れる事が出来るんだなとは思った。
「それじゃ。僕帰るから」
「帰る?確かどこかに行くって」
これはさっきの話を訂正せねば。シンプルに恥ずかしい。やはり心が揺れていたのだろう。
「そうだ。僕学校に行く途中だった。ごめん」
何がごめんかは分からないけれども、とにかくごめんでこの場をごまかしたかった。そして学校に向かおうと思った矢先、どうしても聞きたいまではいかない事だけど少し気になった事をなんとなく聞いてみた。
「そういやスルガ」
「なんだい?好きなコンビ二は24時間営業だぜ」
いや聞くか!そもそもコンビニ好きならもうちょっと店絞る形でいこうよ!誰が24時間営業かそうじゃないかで分けるかい。
「いや、そうじゃない。さっき、武器の説明で言ってたろ。スルガが抜いた武器ってのは僕の感情だって。その感情って一体どの感情なのかなと思って」
「あの武器か。威砂貴。感情ってのは第一感情と第二感情ってのがあってな。まあ分かりやすく言えば第一感情ってのは心の一番はっきりしてる反射的な感情だ。つまりは喜怒哀楽と言われるもの。その第一感情ってのは僕の得意ジャンルなんだがね。そして第二感情ってのはその第一感情のリミックス、というか要は心の揺れるもの、嫉妬や楽観、そのような感情だよ」
なにか分かったような分からないような。まあ、単純に言えば喜怒哀楽以外の感情が第二感情というやつなのだろう。
「で、僕はどっちなの?」
「ああ、威砂貴は第二感情の方だ」
そうか。言われれば初めに会った時にキムさんが僕の事をセカンドって言ってたっけ。
「それで、その僕の感情はなんだったの?」
「ああ、それか。威砂貴の中の一番強い感情を引き抜かせてもらったが、それはね」
スルガはその感情を当たり前のように言い放った。僕はそれを聞いて心が動いてない事に気付き、スルガの言った事を深く不覚にも正解だなと思ってしまった。
「威砂貴の最大感情、それは絶望だよ」

13.4.10

「スルガと僕の感情大戦vol11」

「つまり威砂貴、お前はこの大会規定第94条に乗っ取りスルガがこの大会を優勝するか、敗北するかまで武器としてこの戦いに関与しなければならない、という事だ」
そうだよね。そうなんだよね。あーあ。やっぱり、そういう事言うよね。なんかひっくり返るくらいのとんでもない事言われてるんだけども、ゆっくり気付いて良かったなあと思う。が、状態は決して変わる事はないし、とにかくこれからの事を考えると、キムさんにもう少しお話聞かせてもらわないと。
「キムさん」
「なんだい?」
「キムさん、それはもう…解約みたいな事は出来ないよね」
「当然だろ!後解約ってそんな携帯電話じゃあるまいし、そんな言い方するんじゃないよ」
キムはそう言ってケタケタ笑った。僕はその気分と反比例して心がズクズクになっていく。今初めてズクズクという言葉を感情に使ってみたが、そんなに良い使い勝手じゃなかったのでもう一生使わない。いや、違う。そんな事は本当どうでもいい。今の問題はそこじゃない。
「もう…仕方ない事なのかな」
「落ち込んでるように見えるぞ威砂貴」
そう言ったのはスルガだった。ちょうどじゃがりこ的なものを食べ終わったのか、空の箱を潰しながら指先を舐めていた。
「そうだね。落ち込んでる…っていったら落ち込んでるかな。というよりこの状態を上手く飲み込めてないというのがでかいのですが」
「何を落ち込むというのかね威砂貴。これははっきり言うがね、僕は強いよ。きっと負けない。だから大丈夫」
「いやいや。どっちかというと早く負けた方が早くこの戦いから抜けれるからいいのに」
そういうとまたスルガはただでさえ大きい二重の目をもっと開いた。
「そうだな。そうか。しかし負けてしまうと…そうか。感情的にはそんなものかもしれんな。うん。にしても変わってるな威砂貴は」

13.4.2

「スルガと僕の感情大戦vol10」

とんでもない事に気付きそうになって鼓動が早くなっている。
「えー?スルガさん?」
「どうした?」
スルガはどこから出したのか、じゃがりこ的なものを食べている。ポテロング的なものと何が違うのか分からないけれども、とにかく食べている。しかし棒状のものが好きなのだなあの娘は。
「あのさ、先ほどスルガが言ってた事って」
「先ほど?…あ、ラフティが誰よりも好きだよ」
「いつそんなの言ってたんだよ!ラフティは沖縄の角煮だろ!」
言ってみたものの沖縄の角煮を説明して一体どうなるのか。そんな軽めの恥ずかしさを感じながらも、僕はスルガにもう一度聞かないといけない事がある。
「スルガ、さっき言った台詞だよ。それをもう一度聞かせてくれ」
「ああ、…ちゃんと説明しなくてもいいだろう」
「その後その後だよ!」
「その後は…これからまたおいおいと説明するって」
僕は聞き間違えてない事に戦慄を覚えた。
「おいおいって…一体どういう事?僕らは…ここで終わる関係だよね?」
自分ながらなんか勘違いされるいやらしい言い方をしてしまったなと思う。
「何を言ってるのだ威砂貴?」
「いや、今日こうやって感情を剣とかにするって言ってたじゃんかよ。まあそれはそれでいいじゃないか。でもおいおいって、これからスルガにもキムさんにも会う事はないじゃないか。だからどういう事かなって」
するとスルガは驚いた表情を見せて口に咥えてたじゃがりこ的なものを噛み砕いた。
「いや、あれ?もう早速説明しなきゃいけない訳?おい、キム説明頼むよ」
「何を説明するってのかい?」
キムさんが現れた。別に何って事もない退屈そうな顔で。
「キムさん、おいおいってどういう事?」
「うんとね、どう説明すればいいかな。威砂貴、お前はスルガの武器になったよな?」
「それはなったけど」
「この大会の説明はしたよね?5年に一回行う大会だって言ったよね?すごい人数がそれに参加してる訳だよね。それが今一回勝っただけで終わる訳はないよね?」
「そりゃ…そうだよね」
やばい。もしかしたらこうなられるとまずいという話になりそうで怖い。いや、そうなるのはこの流れでは確定なのかもしれないけども、それをちゃんとこの耳で聞くという一つの病院で言われる告知的な、なんか分かってるけど怖いあの感じ。しかしそんな事はお構いなしにキムさんは喋り続ける。
「この戦いはまだまだ続く。そしてこの大会規定は、一度利用した武器はこの大会で敗北、もしくは最終勝利まで継続する。分かるか?」
分かってしまう。もう少し難しい言葉で言ってくれたらいいのに。悲しいかな分かってしまう。

13.3.26

「スルガと僕の感情大戦vol9」

跳ねながらキムさんはこちらを見る。
「あのさ、その…さっきの説明は分かったけどさ、でもそれをこの…なんか認める事が出来ないというか」
キムさんの跳ねがもっと荒くなった。
「いやいや!違うよ!確かにさ、こういう時なんか小説とかであれこれなってる時ってさ、認めないとかあるけどさ!これをどうやって認めない訳?現に君から剣が出てる訳じゃんかよ!何故認めない訳?」
「いや、説明は分かるんですけどどうもそれが現実かどうかというのが」
キムさんの色がほのかに赤色に変わった。
「いやいやいや!違いますやんか!君ここで見たがな!後今喋ってるの誰や!キノコと喋ってるんやで君は!」
どういう事かはっきりと関西弁になった。しかもこの関西弁が正解かどうかも僕は分からない。
「それをなんで認めへんのや!…まあ、そうか。そりゃ君の考えも分かるよ。こんな話誰が信じるんだという話だもんね。でもさ」
キムさんのトーンが少し変わった。
「これが現実であるって君が信じなくても、これは現実なんだ」
そうだよな。と不意に思ってしまった。認めたくないと思ってたのに。でもどんな的確な状況説明よりも、この全てを飲み込むような説得力がある一言に心が揺れてしまったのは本当の事だ。
「まあもういいじゃないか」
声のする方を向くとその場にあぐらを掻いてこちらを見てるスルガがいた。その表情はだいぶつまらなそうだ。
「別に威砂貴にそんなちゃんと説明しなくてもいいだろう。これからまたおいおいと説明していく事になるだろうし」
さすがスルガは、キムさんより落ち着いてるな。まあいいか。とりあえず俺は今日もまた学校に行かなければならない訳なのだから、こんな所であれこれ道草してる場合でもない。時間的にもう遅刻は確定だろうけど、とりあえず学校に向かっていこう。こんな出来事が会った事は誰に言う事も出来ないけれどもこれからどんどん大人になっていき、いつかとんでもない事があったなあと思い出すのかもしれない。そもそも未来の自分ですらこの出来事を、10年後にちゃんと信じれてるかどうかも分からないんだけども。でもまあさっきスルガが言ったように説明もおいおい聞いていけば…
「…え?」